【第17話】ケリーと5つの家族からのお祝い、異国での誕生日 ~24本のロウソクが照らした、忘れられない夜~

生徒たちと大相撲を観戦して大はしゃぎしたメルボルンからスワンヒルへ戻った翌日。

6月初旬の日曜日、今度はモーガン邸に、大勢の人々が集まってきた。

この日、私は人生で初めて、異国の地で誕生日を迎えたのである。

当日の朝からどのように過ごしたのか、残念ながら、今となってはほとんど覚えていない。

それでも、夕方から夜にかけて、モーガン家のリビングが、さながらパーティー会場のようなにぎわいに包まれていたことは、記憶している。

5つのホストファミリーが大集合

この日、私を祝うために集まってくれたのは、現在お世話になっているモーガン家と、このあと順番に暮らす予定だった4軒のホストファミリー。

さらには、師匠ケリーも駆けつけてくれた。皆の手には、山のようなプレゼント。

まだ一緒に暮らしたこともなく、挨拶を交わした程度のご家族までが、私の誕生日を自分たちの祝い事のように喜んでくれていた。

なかでも驚かされたのが、後に4軒目のホストファーザーとなるトニーだった。

なんと彼は、びしっと蝶ネクタイを決めた、タキシード姿で登場したのである。

「私ごときの誕生日に、そこまでしてくださるなんて……」

もう、びっくりするやら、恐縮するやら。

それでも、おどけて現れたトニーの姿から、この日を特別なものにしようという温かい心遣いが伝わってきた。

「Happy Birthday, Nao!」

あちらからも、こちらからも、心のこもったお祝いの言葉が飛んでくる。

その一つひとつに答えながら、私は嬉しさと気恥ずかしさで、どうにも落ち着かなかった。

暗くなったリビングに、24本の光

にぎやかなディナーが終わったあと、突然、リビングの灯りが消された。

辺りが暗くなると、奥のほうから、マリアンヌお手製のバースデーケーキが運ばれてきた。

ケーキの上では、24本のロウソクの炎が、ゆらゆらと揺れていた。

その小さな光に照らされながら、参加者全員による、

“Happy Birthday to You~♪” の大合唱。

大勢の人に囲まれ、バースデーソングを歌ってもらうことなど、それまでほとんど経験したことがない。

私はケーキの前に立ち、ただただ照れながら、皆の歌声を聞いていた。

歌が終わると、誰かが声を上げた。「Make a wish, Nao! さあ、願い事をして!」

あのとき、どんな願い事をしたのだっけ??

もしかすると、この先のオーストラリア滞在が、実り多いものになりますように――と願ったかもしれない。

私は少しの間、目を閉じた。そして、皆の盛大な拍手に包まれながら、24本のロウソクの火を、思いきり吹き消した。

こんな華やかな自分の誕生日を過ごしたのは、後にも先にも、この時だけ。本当に貴重な思い出です。

誕生日は、こんなにも温かい日だった

誕生日とは、こんなにも温かい気持ちになれる日だったのか――。

もちろん、日本の実家でも、家族は誕生日などの記念日を大切にしてくれていた。

私自身、決して祝ってもらえなかったわけではない。

しかし、ある程度の年齢になり、特に二十歳を過ぎてからは、自分の誕生日など、それほど特別な日として意識することもなくなっていた。

またひとつ年をとった日。その程度に考えていたのかもしれない。

だからこそ、遠い異国の地で、これほど大勢の人々が私のために集まり、笑顔で祝ってくれたことが、心に深く響いた。

スワンヒルへやって来て、まだひと月あまり。英語での生活にも、学校での活動にも、ようやく慣れ始めたばかりだった。

生徒たちの授業では、幾多の失敗に落ち込み、自分は本当にこの町でやっていけるのだろうかと、何度も不安になった。

けれどもあの夜、ロウソクの向こうに見えたのは、私を心から迎え入れてくれている人たちの笑顔だった。

私は、この町でひとりではない

あの夜、モーガン家のリビングに集まっていた人々の中には、まだほとんど言葉を交わしたことのない、次のホストファミリーたちがいた。それでも皆、これから先、自分たちの家へやって来る日本人の「娘」を、すでに家族の一員として迎えようとしてくれていた。

8か月間のスワンヒル滞在中、私は5軒のホストファミリーのお世話になることになっていた。

住む家が何度も変わると聞いた当初は、そのたびに新しい環境へなじめるのだろうかと、不安に思わないでもなかった。

しかし、この誕生日を境に、その不安は少しずつ、これから始まる新しい出会いへの楽しみに変わっていった。

24本のロウソクに照らされたあの光景は、

――この町で、私はひとりではない。そう初めて実感できた瞬間だったのかもしれない。

それでも、暗いリビングの中で揺れていた小さな炎と、その向こうに並んでいた皆のあたたかな笑顔だけは、今も私の記憶から消えることがない。人生で初めて異国の地で迎えた誕生日は、私がスワンヒルという町の家族になれたことを実感した、忘れられない夜となった。

そして間もなく、今度は日本から特別なゲストの一団がスワンヒルへやって来る。

5つの家族から盛大に誕生日を祝福された日本人娘は次回、草の根「外交官」として、大張り切りすることに・・・

(次回へ続く)

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